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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)7075号 判決

当事者参加人 忍草入会組合

原告 富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合

被告 国

訴訟代理人 叶和夫 外五名

主文

参加人の当事者参加申出を却下する。

参加人と原告、被告との間に生じた訴訟費用は、参加人の負担とする。

事実

参加人は、

「一、原告と参加人との間において、別紙物件目録記載の各土地につき、参加人が採草等をなすことを内容とする入会権を有することを確認する。

二、被告は、右各土地に自衛隊を立ち入らせて演習をさせてはならない。

三、被告は、参加人が右各土地に立ち入り、これを使用・収益することを妨害してはならない。

四、訴訟費用は原・被告の負担とする。」

との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、被告に対し別紙物件目録記載の各土地(以下本件土地という。)につき左記内容の土地立入禁止等請求の訴を、昭和四一年一〇月三一日東京地方裁判所に提起し、右事件は昭和四一年(ワ)第一〇、四九六号事件として係属中である。

すなわち、原告は、山梨県富士吉田市、同県南都留郡山中湖村および同郡忍野村の一市二ケ村で構成された地方自治法第二八四条第一項の規定にもとづく一部事務組合であつて、山梨県恩賜県有財産の保護その他の事務の共同処理を目的とする組合で、本件土地の所有権著であるが、被告はなんら正当な権限を有しないのに、本件土地がいわゆる北富士演習場内に位置しているところから、自衛隊をして本件土地に立ち入らせ、火砲の実弾射撃演習その他の戦闘訓練を行わしめ、もつて原告の本件土地の使用・収益を妨害しているとして、本件土地所有権にもとづき「被告は本件土地に自衛隊を立ち入らせて演習をさせてはならない。被告は、原告が本件土地に立ち入り、これを使用・収益することを妨害してはならない。」旨の裁判を求めている。

二、1 参加人は、いわゆる北富士演習場内に存する本件土地を含む通称梨ケ原に採草等を主たる内容とする共有の性質を有しない入会権をもつ入会団体で、現に農業を専業とするもので明治時代から継続して忍草区民またはその分家で現に区民である者等によつて構成され、その運営および業務遂行のために組合規約および対外的な代表機関たる組合長を有するいわゆる権利能力なき社団であり、原告組合の構成団体の一つでもある。

2 参加人は、本件土地に対して、従来、採草等を主たる内容とする独自の入会権を有し、これを行使してきたものであり、原告はこのことを承認してきたにもかかわらず、最近参加人の本件土地に対する入会権を認めないかの如き言動をとるに至り、また被告は、入会権者たる参加人に対抗し得る正当な権限を有しないのにいわゆる北富士演習場内に位置している本件土地に自衛隊を立ち入らせ、火砲の実弾射撃演習その他の戦闘訓練を行わしめ、もつて参加人の本件土地に対する入会権にもとづく使用・収益を妨害しているので、民事訴訟法第七一等前段により原・被告間の第一項の訴訟(以下本訴という。)に当事者参加し、本件土地の入会権にもとづき原告および被告に対しそれぞれの請求趣旨記載の裁判を求める。

三、参加人が右参加をする理由は、次のとおりである。

1  原告は、数年来自衛隊が本件土地をなんらの権限なく演習に使用してきたので、その構成団体である参加人入会組合らの権益を保護するため、本訴を提起して自衛隊の使用を違法であるとしてその妨害排除を求め、他方防衛庁にも演習中止の申入れをしてきた。

一方いわゆる北富士演習場は、日米安全保障条約にもとづくいわゆる地位協定に定める「施設及び区域」であるところ、被告は右演習場を自衛隊の演習場に使用転換したいとの方針のもとに地元関係住民への宣撫工作を進めてきたが、原告も昭和四四年四月一日組合長が天野総一郎から現組合長渡辺孝二郎に交替してから右被告の方針に積極的に協力する姿勢をとるようになつた。

そして原告は、右演習場の自衛隊への使用転換を容易にするため、団体住民の意見の調整をはかつたり、被告あるいは山梨県当局と折衡するなどしてきたが、本訴を提起していることがそれらの動きに対して大きな障害となつてきたため、本訴の追行に熱意を失つたばかりか、いわゆる馴合訴訟により積極的に被告の利益になるように本訴を終結させることを意図するようになつた、すなわち原告は、被告と気脈を通じて、被告に利権の提供をさせたうえ本訴の取下、請求の放棄等その他被告が敗訴しないように種々画策している。

ところで、もし本訴が、原、被告間のいわゆる馴合訴訟行為の結果、原告の敗訴、原告の訴の取下、請求の放棄等により終了するならば、これにより、参加人は、自衛隊による本件土地の演習場使用という既成事実を事実上認めざるを得なくなり、ひいては原告が本訴において勝訴した場合に始めて参加人も本件土地に対する入会権を充分に行使し得るものであるという参加人の利益を侵害されることになる。

2  また仮に原告において、被告を利するため本訴の敗訴あるいは訴の取下等いわゆる馴合訴訟を意図しているものではないとしても、本訴において被告が敗訴するならば、参加人は本件土地に対する入会権にもとづき改めて被告を相手方として立ち入り禁止等の別訴を提起しなければならなくなり、また原告に対しても参加人の入会権を主張して別個の訴訟をしなければならなくなる。かかる場合、本訴と判決の結論が異なるに至ることを避け、原告、被告、参加人間の紛争を画一的に解決するため、訴訟経済の観点からも、参加人は本訴に対し民事訴訟法第七一条前段にもとづく当事者参加の申出をなすことができるものというべきである。参加人の右当事者参加の申出に対し、原告および被告は、参加人の右申出は、民事訴訟法第七一条前段の要件を欠く不適法なものであるから、主文第一項と同旨の判決を求めると述べた。

理由

本件当事者参加の申出の適否について、職権をもつて判断する。

一、本件当事者参加の申出の要旨は、原告が被告に対し、本件土地所有権にもとづき「被告は、本件土地に自衛隊を立ち入らせて演習させてはならない。被告は、原告が本件土地に立ち入り、これを使用・収益することを妨害してはならない。」旨の判決を求める訴を提起し、その訴訟係属中に、参加人は、右原、被告間の本訴の結果によつて、参加人の本件土地に対する共有の性質を有しない入会権を侵害されるものであると主張して、原告および被告に対し右入会権にもとづき「原告と参加人との間において、本件土地につき、参加人が採草等をなすことを内容とする入会権を有することを確認する。被告に本件土地に自衛隊を立ち入らせて演習をさせてはならない。被告は、参加人が本件土地に立ち入り、これを使用・収益することを妨害してはならない。」旨の判決を求めるため、民事訴訟法第七一条前段にもとづく参加の申出をなすというにある。

二、おもうに、民事訴訟法第七一条前段の規定は、本訴たる原、被告間に係属する訴訟を第三者として放置しておいたならば、本訴の判決および判決と同一の効力を有する訴訟行為(同法第二〇三条)の結果を承認せざるをえなくなり、ひいては自己の権利が侵害されもしくは侵害されるおそれのある第三者をしてその権利を保全させるため、本訴を制肘すべく独立した当事者として参加させ、被参加当事者および参加人間の紛争を迅速画一に解決し、もつて訴訟経済および判決の牴触防止を図つたものにほかならず、右にいう第三者とは必ずしも既に係属する本訴の判決および判決と同一の効力を有する訴訟行為の効力を直接受け、これに服従しなければならない者に限られず、その訴訟の結果間接に自己の権利を害せられるおそれのある者をも含むものと解するのが相当であるが、本条前段の参加は右の如く他人間の訴訟にまで介入しそれに制肘を加えるという強い効果をもつところから、右申出をなすことができる第三者は、右効果に相当する利害関係を有する者におのずから限られるものと解さなければならない。

ところで、参加人は、原告が被告に対し提起している前記本訴においていわゆる馴合訴訟行為を意図しているとし、その結果原告の敗訴、原告の訴の取下、請求の放棄等により本訴が終了するならば、これにより、参加人は自衛隊によるいわゆる北富士演習場内に存する本件土地の使用という既成事実を事実上認めざるを得なくなり、ひいては原告が本訴において勝訴した場合に始めて参加人も本件土地に対する入会権を充分に行使し得るものであるという参加人の利益を侵害されることになると主張する。

しかし、たとえ本件土地に対し自衛隊が立ち入り等をなすも、参加人は、原、被告聞の訴訟行為の存否如何にかゝわらず、本件土地に対する物権たる共有の性質を有しない入会権を主張して、所有権者とは関係なく、独自の立場から、防害排除等の物権請求権の行使をなし得るものであつて、仮に本訴において原告が敗訴したとしても、参加人はその主張するように自衛隊による本件土地使用という既成事実を事実上認めなければならないものではなく、参加人が本件参加の理由として主張する入会権は、原、被告間の本訴の結果によつてなんら侵害をうけるおそれはないものといわなければならない。

また仮に本訴において原告が敗訴すれば、参加人は自己の入会権にもとづき妨害排除等の別訴を提起しなければならなくなるという不別益を受けるとしても、参加人の右別訴における訴訟追行がそのため特に困難になるということもないので、いまだこれをもつて参加人の権利が侵害されたものとはいいがたく、参加人が本条前段の参加の申出をなす要件を備えているものはといえない。

また、参加人は、原、被告が馴合訴訟を意図しているものではないとしても、本訴において原告が敗訴するならば、参加人は別訴で争わなければならなくなるが、その際における本訴と別訴との判決の結論が異なるに至ることを避けるため、訴訟経済の観点等から本条前段にもとづき参加の申出をなすことができると主張する。

しかし本条前段は、本訴に対し前記の如き利害関係を有する第三者を当事者として参加させ、被参加当事者および参加人間の紛争を迅速画一に解決し、もつて訴訟経済および判決の牴触防止を図つたものにほかならず、前叙の如く参加人の有すると主張する本件土地の入会権にもとづく妨害排除等の物権的請求権の行使が原告敗訴の判決等によつて制限を受けることは全くなく、原告、被告および参加人の三者間の紛争を合一的に解決する必要のない以上、右参加人主張の事由のみをもつて本条前段の参加申立の要件があるものとはいえない。

以上説示したところから、参加人が原、被告間の前記本訴の結果によりその権利を侵害されるものとはいいがたいことおのずから明らかである。

よつて、参加人の本件参加申出は、民事訴訟法第七一条前段の参加申出の要件を欠く不適なものとして、これを却下することとし、その訴訟費用の負担につき同法第八九条を適用して、主文のとおり判決する、

(裁判官 輪湖公寛 白石嘉孝 玉田勝也)

物件目録〈省略〉

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